地面から幾筋も、もうもうと立ち 上る蒸気に包まれている小国町岳の湯地区。周囲にはかすかに硫黄の匂いが漂う。ここで100年以上前から地熱を利用して栽培されてきたのが“黒菜"だ。大きくて太い株、黒みを帯びた濃い緑の分厚い葉...。小松菜に似た姿形ながら、確かな由来は伝わっておらず、現在、栽培して いるのは集落の5軒ほど。自家消費が主なため、ほとんど出回ることがない希少な緑黄色野菜だ。
黒菜は、9月中旬に種を地蒔きし、11月に地熱で地面が温められている畑だけに移植する。土の温度が高いため、雪が降る冬でも露地で栽培できるのだ。自家菜園で黒菜を育てる後藤朝香さんは、「霜にあたると柔らかくなり、甘みが出てきます」と教えてくれる。収穫した黒菜は自宅敷地内に吹き出す蒸気で蒸すと、緑が一層鮮やかに。旬の時季、後藤さんは、日々、白和えやごま和え、お浸しなどにして黒菜を食べる。「この地だけでしか育たない特別な野菜を、日常的に食べられるのは嬉しいですね」とのこと。これからも種を採り栽培を続けたいと話す。
地面や石垣の間など、至る所から温泉の蒸気が上がる岳の湯地区は別世界のよう。蒸気の温度は98度ほど。不用意に近づくと火傷をする。
3株ほどで大きなカゴもいっぱいに。「地熱で育ち、地熱の蒸気で食べる冬野菜です」と後藤さん。12〜3月に少しずつ収穫して食べる。
地熱の蒸気で調理する“地獄釜”で、3分ほど蒸すと緑の艶が増す。細かく刻み、生姜醤油やポン酢で和えるだけでおいしい一品に。
熊本県阿蘇市一の宮町宮地4607-1
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